指紋はとらせなきゃならないの?

刑事事件手続のQ&A

指紋の採取を求められたら、やはり躊躇する人が多いでしょう。指紋の採取を拒否する権利はあるのでしょうか。

指紋押捺を強制されない権利

指紋は、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性があるものです。

そのため、何人もみだりに指紋押捺を強制されない権利は、私生活上の自由の一つとして、憲法13条で保障されています(最高裁判所判決平成7年2月15日判決)。

憲法13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

例外:外国人の入国時の指紋採取

かつて、在留外国人について、外国人登録法第14条、第18条1項8号によって、指紋押捺制度があり、これに反すると刑罰もありました。この制度の合憲性について争われたのが、最高裁判所平成7年2月15日判決です。

最高裁判所は、何人もみだりに指紋の押捺を強制されない権利を有し、これは、我が国に在留する外国人にも等しく及ぶとしています。

しかし、憲法によって保障される権利も、公共の福祉のために必要があるときには、相当な制限を受けることがあります

この判例では、この指紋押捺制度は、「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するために、戸籍制度のない外国人の人物特定に最も確実な制度として設けられたもので、立法目的に合理性と必要性があるとしています。

そして、その制度の内容も(当時は)押なつ義務が3年に1度で、押なつ対象指紋も1指のみであること、罰則も間接強制にとどまることから、一般に許容される限度を超えない相当なものであると判示しました。

そこで、結論として、外国人指紋押捺制度は、憲法13条に反せず、合憲であると認めたのです。また、憲法14条の平等原則にも反しないと判断されています。

もっとも、この外国人登録法による指紋押捺制度は、平成12年までには廃止されました。

しかし、その後のテロ事件の多発などを受け、平成18年には、出入国管理及び難民認定法(入管法)が改正され、日本に入国する外国人に顔写真と指紋の提供を義務付けられることになりました(16歳未満の者、特別永住者などを除く)。

そして、日本人も、アメリカなど他国に入国する際には、指紋の採取を求められることがあります。これは、それぞれの国の法律で決まっていることであり、拒否すれば入国できないということになります。

例外:刑事手続きにおける指紋採取

指紋採取を拒否できない場合とは?

日本国内において、指紋採取を求められることが多いのは、主に警察の捜査のときです。被疑者として指紋採取を求められたとき、断ることができるのでしょうか。

刑事手続きにおいて、指紋採取を拒否できないのは、下記2つに該当する場合です。

  • 身体検査令状が発布されている場合
  • 身柄拘束されている被疑者である場合

そもそも、警察の捜査には、強制捜査と任意捜査があります。そして、強制捜査をするには、令状が必要です。これを令状主義と言い、憲法33条及び35条によって決められています。

憲法33条
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

憲法35条
1 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行う。

このように、公権力が、捜査の名のもとに、国民の権利や自由を侵害しないように憲法で定められた令状主義に基づき、刑事訴訟法でも、下記のように定められています。

第218条第1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。この場合において身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

このように、捜査のための差押、捜索、検証は令状が必要です。身体検査については、身体の自由を侵害し、個人の尊厳にかかわるため、身体検査令状が必要とされています。

指紋採取は、検証の一種で、身体検査に分類されます。そこで、原則として、身体検査令状が発布されていない限りは、指紋採取を強制されない権利があることになります。

しかし、例外もあります。

刑事訴訟法第218条第2項
身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長もしくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、前項の令状によることを要しない

この規定により、逮捕・勾留などによって、身柄拘束をされている被疑者については、身体検査令状なしで、指紋採取をすることができることになっています。

これは、指紋採取や写真撮影は、被疑者の特定のために必要であることと、人権侵害の程度が少ないと考えられるためとされています。

そこで、逮捕・勾留されている被疑者は、指紋採取を拒否することができません

以上より、刑事手続きにおいて、指紋採取を拒否できないのは、下記2つに該当する場合ということになります。

  • 身体検査令状が発布されている場合
  • 身柄拘束されている被疑者である場合

指紋採取を直接強制できるのか?

上記の場合には、指紋採取を拒否できないにもかかわらず、本人が、頑なに拒否して、指紋採取に応じなかったらどうなるのでしょうか?

まず、刑事訴訟法138条は、身体検査を拒む者に対して、罰則を定めています。

刑事訴訟法第138条
1 正当な理由がなく、身体の検査を拒んだ者は、10万円以下の罰金又は拘留に処する。
2 前項の罪を犯した者には、情状により、罰金及び拘留を併科することができる。

従わなければ、刑を科されるということで、これは、間接強制の規定です。

しかし、10万円以下の罰金や拘留(1日以上30日未満の刑事施設への収容)ですむのなら、その方がいいと考える人もいるかもしれません。

このような間接強制ではなく、直接強制をすることができないのかについては、東京地方裁判所昭和59年6月22日判決があります。

この判決では、写真撮影や指紋採取は、身体検査なので、刑事訴訟法第139条(第222条1項により準用)によって、「間接強制では効果がないと認められたときは、そのままその目的を達成するため必要最小限度の有形力をもって直接強制することは許されると解される」と判示されました。

これにより、被疑者が拒んでいても、必要最小限度の有形力を行使して、指紋採取を行うことができることになります。

刑事訴訟法第139条
裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。

例外:少年事件における指紋採取の拒否

少年被疑者等の指紋又は掌紋の採取及び写真撮影の取扱いについては、その適否が少年の処遇に大きな影響を及ぼすこととなるため、平成13年2月13日に出された通達により、運用の適性が定められています。

身体の拘束を受けている少年の被疑者については、上記の刑事訴訟法第218条第2項によって、写真撮影と指紋の採取が行われます。

身体の拘束を受けていない少年の被疑者の写真撮影と指紋採取は、犯罪捜査のため必要やむを得ない場合で、少年被疑者の承諾を得たときに限り行うことができます

触法少年については、原則として、指紋等を採取し、又は写真を撮影してはならないことになっています。

ただし、触法少年に係る事件の現場等に残された指紋等との対照又は写真面割りによって、その少年が刑罰法令に触れる行為をした者であることを特定するために必要やむを得ない場合で、少年及び保護者の承諾を得たときは、例外となります。

まとめ

何人もみだりに指紋押捺を強制されないという権利は、憲法で保障された大事な権利です。ただし、身柄拘束されている被疑者や、身体検査令状が発布されている場合には、拒否することができず、場合によっては、必要最小限度の有形力の行使をもって、直接強制されることもあります

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