署名押印拒否権ってなに?

刑事事件手続のQ&A

警察官や検察官からの取り調べを受ける際の被疑者の重要な権利の一つに署名押印拒否権があります。これは、どのような権利なのでしょうか?そして、これがなぜ、重要なのでしょうか?

署名押印拒否権とは

そもそも、自分の述べたとおりに、供述調書を訂正してくれない場合には、署名・押印をする必要がありません

刑事訴訟法第198条5項では、「誤りのないことを申し立てたとき」に、「署名押印を求めることができる」と規定されているのですから、そもそも、「内容が間違っている、訂正してほしい」と、被疑者が述べている間は、署名・押印を求めることができないのです

刑事訴訟法第198条第5項
被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶したときはこの限りではない。

そして、「間違いないです」と被疑者が述べた場合でも、捜査機関は、署名や押印をすることを「求めることができる」にとどまり、署名押印を強制することはできません

つまり、供述調書の内容に誤りがない場合でも、署名押印は拒否してもいいのです。これを署名押印拒否権といいます。

署名押印拒否権の重要性

刑事裁判では、署名・押印済みの供述調書は、証拠として大きな意味を持ちます。

きちんと供述調書を読んで、もしくは、読み聞かせてもらって、間違いを訂正してもらい、「間違いない」と確認してから、署名押印しているはずであるから、署名押印済みの供述調書の内容には間違いはないというふうに見られるのです。そのため、裁判になってから、供述調書の内容を訂正することは非常に困難なのです。

明らかな間違いはなくても、自分が話した内容を警察官や検察官のような他人がまとめると、ニュアンスが違うのではないかと感じることがあると思います。また、あいまいな表現が用いられている場合もあるでしょう。そのようなときにも、こういう表現の方がいいというふうに訂正してもらうか、どうしても納得がいかないときには、署名押印を拒否するべきです

供述調書の記載が、自分の意図とは違うふうに解釈され、その結果、不利になることもありえるからです

実務上では、被疑者が署名押印を拒否した供述調書は、被疑者が署名押印を拒否した旨を記載した上で、作成者は、署名押印します。そのため、その取調官の証人尋問がされる場合には、その資料として使用される可能性はあります。

しかし、検察官及び被告人が証拠とすることに同意した場合(刑事訴訟法第326条の同意)でなければ、証拠にすることはできません

署名押印を拒否するということは、供述調書を証拠とすることを拒否するということでもあります

間違った内容の供述調書、あいまいな内容の供述調書が証拠として重視されると、えん罪を生んだり、必要以上に重い刑罰を受けたりすることにつながりかねません。「供述調書への署名・押印は拒否することができる」ということはぜひ、覚えておいてほしいと思います。

取り調べに対する被疑者の権利

被疑者の3つの権利

逮捕又は、勾留されている被疑者は、取り調べには応じなければなりませんが、その代わりに、3つの権利があります(もちろん、任意捜査で取り調べに応じている被疑者にも同様の権利があります)。

取調を受ける際の重要な権利

  • 黙秘権
  • 供述調書の増減変更申立権
  • 署名押印拒否権

黙秘権

まず、黙秘権は、憲法第38条によって保障されている非常に大事な権利です。

これは、自己に不利益な供述を強制されないという人間の尊厳にかかわる重要な人権である自己負罪拒否特権に根拠があります。

そのため、刑事訴訟法第198条第2項でも、取り調べを始める前には、黙秘権や供述拒否権があることを伝えなければならないことが定められています。

憲法第38条第1項
1何人も、自己に不利な供述を強要されない。

刑事訴訟法第198条第2項
前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

そこで、取り調べを受けることは拒否できなくても、黙秘することはできます

増減変更申立権

取り調べで、黙秘権や供述拒否権を使わずに、事件について話をすると、供述調書が作られます。この供述調書に対しては、まず、増減変更申立権があります。

刑事訴訟法第198条
4前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。

供述調書をよく読み、又は、読み聞かせてもらって、間違いがあれば、訂正を求める必要があります

取り調べの流れと供述調書の作成

身柄拘束されている取り調べ受忍義務

警察や検察は、捜査のために必要がある場合には、被疑者を取り調べることができます。

刑事訴訟法第198条第1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は、勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

この刑事訴訟法第198条の但し書きでは、身柄拘束されていない被疑者は、出頭を拒み、又は、出頭後、いつでも退席できるとされていることから、逆に、身柄拘束されていない被疑者については、取り調べ受忍義務があると解されています。

最高裁判所平成11年3月24日判決の傍論でも、「身体の拘束を受けている被疑者に取り調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちにその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うものではない」という判示をしており、身柄拘束されている被疑者の取り調べ受忍義務を肯定していると解されています。

供述調書の作成

取り調べでは、供述調書が作成されます。

刑事訴訟法第198条第3項
被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。

供述調書は、身上経歴(どこで生まれたということから、家族関係、出身校、職業の経歴など)及び前科前歴を記載する調書と、今回の被疑事件について、記載する調書があります。通常は、何通かに分けて作成されます。

供述調書の読み聞かせ

供述調書は、警察官又は、検察官が、被疑者の話を聞き、聞いた話をまとめて作成するものです。そこで、内容が恣意的にならないように、被疑者に確認してもらう必要があります。

刑事訴訟法第198条第4項
前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうおかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。

供述調書への署名押印

被疑者が、作成された供述調書の内容に間違いないことを述べた場合には、その末尾に署名押印(捺印)することを求められます。

刑事訴訟法第198条第5項
被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶したときはこの限りではない。

まとめ

密室で作られる供述調書にはさまざまな問題点があります。黙秘権、供述調書の増減変更申立権も重要な権利ですが、最終的には、供述調書への署名・押印を拒否することによって、間違った内容の供述調書、あいまいな内容の供述調書を証拠にすることを阻止することになります

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